GDP600兆円は物価2%前提、金融政策の重要性不変=黒田日銀総裁

日銀の黒田東彦総裁は28日、大阪市内で会見し、
安倍晋三政権が打ち出した「新3本の矢」は、2%の
物価上昇を前提に600兆円の国内総生産GDP
達成を掲げているとの見解を表明した。

その上で「強い経済」を目指す新1本目の矢の中に、
日銀の金融政策が入っていると指摘。

安倍政権の経済政策に占める日銀の大規模な
金融緩和の重要性には、全く変化がないとの見方を
強調した。

安倍晋三首相が24日発表した「新3本の矢」には、
旧3本の矢で第1の矢と位置付けられていた
金融政策に対する言及がない。

しかし、黒田総裁は内閣府の推計で、デフレ脱却し、
成長戦略による実質GDP成長率引き上げに成功した場合、
2020年度近辺で600兆円を達成する試算になっていることを
説明。

「それを実現する上で、デフレ脱却し消費者物価指数
(CPI)2%の目標を安定的に実現するという現在の
金融政策の目的あるいは目標が、当然入っていると
理解している」と述べた。

日銀が政策運営の目安としてきた生鮮食品を除いた
消費者物価指数(コアCPI)は、8月に
前年比マイナスへ転落した。

ただ、生鮮とエネルギーを除いた日銀の新コアコアCPIは
「プラス1.1%まで上昇しており、物価の基調は
しっかりしている」と黒田総裁は強調した。

原油価格が日銀の想定を大幅に下回っているが
「極端に言えば原油価格が(先行き上昇せずに)一定でも、
物価の基調が上昇しているので、影響はいずれはがれる」と言明。

原油の影響を除去した物価の
基調を重視する姿勢を示した。

もっとも企業や家計の物価観を示す期待予想物価上昇率
「物価目標達成に非常に重要」とし、「今のところ概ね
安定的に維持されているが、動向を今後も注視する」とした。

同時に「物価の基調に変化があり、必要ならば政策を
躊躇なく調整する姿勢に変わりない」と、状況の
変化によって追加緩和も辞さない姿勢を改めて示した。

7〜8月の輸出が弱かったため、市場関係者の間では
7〜9月期のGDPが2四半期連続で前期比マイナスと
なる可能性が取り沙汰されている。

黒田総裁は「これまでのデータを見る限り、
7〜9月がマイナスと言うことは難しい」と指摘した。

GDPがマイナス成長に陥れば「メカニカルには
需給ギャップの改善が止まる」が、「ギャップ自体が
非常に小さい場合や、完全雇用の状況ならば、物価や
賃金が上がって行ってもおかしくない」との見方を示した。

また、同総裁は大阪市内で関西経済界との懇談会に出席し、
為替は経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)を反映し
安定的に推移するのが望ましいと指摘。

円安によるコスト増などマイナス面にも
配慮して政策運営すると述べた。

懇談会では出席者から、日銀の「量的・質的緩和
(QQE)」による円安で外国人観光客の増加など多くの
効果が出ているとの評価がある一方、「インバウンドと
富裕層頼みで物価目標達成は難しい」(佐藤茂雄・
大阪商工会議所会頭)、「良薬に副作用あり『黒田薬局』の
薬にも副作用」(更家悠介・サラヤ社長)、「繊維産業には
交易条件の悪化は厳しい」(坂元龍三・東洋紡会長)などの
指摘も出た。

黒田総裁は「円高是正の影響は経済主体に
よって異なる」とし「中小企業などには
押し下げ圧力となる」と認めた。

財務官時代を振り返り、「為替政策を
担当していたが予測は難しい」と指摘。

「今後とも市場動向、日本経済への影響を注視したい」とし、
円安によるコスト増などにも「十分配慮したい」と述べた。

また、出席者から要望の出た成長基盤支援・貸出支援制度の
延長について、今後検討したいと含みを持たせた。

今後も「上下双方向のリスクを点検し物価2%実現に
必要なら政策を調整する」として、追加緩和を
辞さない姿勢を改めて示した。

また、同総裁は講演で、企業や家計の物価観の変化により、
物価の基調は着実に改善していると強調。

ただ、物価2%目標の達成には雇用・賃金の増加を
伴いながら物価上昇の循環メカニズムが「一層
強まっていく必要がある」と語った。

総裁は、日本経済のデフレ脱却に向けて、現行の量的・
質的金融緩和(QQE)は所期の効果を発揮していると説明。

日銀が目安とする生鮮食品を除いたベースの消費者物価
(コアCPI)はゼロ%程度での推移が続いているものの、
「物価の基調は着実に改善している」と繰り返した。

その背景として「企業や家計の物価観が変化している」とし、
今年も多くの企業で昨年を上回るベースアップが実現したほか、
企業の価格設定行動も仕入価格や人件費上昇を販売価格に
転嫁する動きがみられていると指摘。

「今年度に入ってからは、価格改定の動きに広がりと
持続性がみられている」との認識を示した。

物価が目標とする2%に達する時期は「2016年度
前半頃と予想している」としながらも、「原油価格の
動向によって前後する可能性には留意する必要がある」
と指摘。

物価安定目標の実現に向けては「雇用・賃金の増加を
伴いながら物価上昇率が高まっていくという循環メカニズムが、
一層強まっていく必要がある」とも語った。

その上で、物価目標実現に向け、その安定持続に
必要な時点までQQEを継続する姿勢を改めて表明。

その際に、上下双方向のリスクを点検し、何らかの
リスク要因によって物価の基調的な動きに変化が生じ、
目標の早期実現に必要と判断すれば「躊躇なく(政策)
調整を行っていく方針に変わりはない」と語った。

さらに、企業が史上最高の収益をあげ、労働市場
完全雇用の状態にある中で「将来の経済成長と賃金・
物価の上昇につながっていく道筋は、経済の
カニズムからみて当然」と主張。

日銀として「デフレからの脱却と2%の物価安定目標の
実現に強くコミットし続ける」と強調するとともに、
2%程度で物価が安定する世界では「当然、これほどの
金利環境は続かない」と付言した。