復興は無形資産投資で「革新」を、経済成長の鍵に=経済財政白書

内閣府が22日に公表した2011年度の年次経済財政報告
(経済財政白書)では、過去に各国で発生した自然災害などの復興過程を研究。

人的資本や知的財産などの「無形資産」に対する投資を通じて
イノベーション(革新)を進めることが、今後の日本経済を
力強い成長につなげる鍵だと提言している。

白書では、東日本大震災による景気下押し圧力は
「過去の内外の災害に比べて大きい」と指摘。

その背景として、1)全国的に個人消費が減少、原子力災害を
伴ったことで消費マインドも悪化した、2)サプライチェーン
寸断などで、生産活動に強い下押し圧力がかかった、
3)電力供給の制約が生産を中心に経済活動を下押ししたことの
3点が経済的な特徴だったと挙げた。

その上で、過去に各国で発生した自然災害の復興過程では、
損壊した設備を再建するときに最新技術を導入するなどして
得た労働者のスキルや、関連するノウハウ、特許などの
知的財産という「無形資産」へ投資を拡大させた例が、
その後の経済成長につながったと紹介。

白書の副題である「日本経済の本質的な力を高める」ことに向けて、
日本の貿易開放度がまだ低い点や、企業のグローバル化が結果として
賃金水準を押し上げること、日本の研究開発費は米や
欧州連合EU)を上回っているにもかかわらず、
保有特許件数などで見た成果につながっていないこと、
起業の機会が少ないことなどを問題点と指摘している。

また、同白書では、国と地方を合わせた政府全体の
バランスシートを10年ぶりに作成した。

2009年度末段階で年金の公費負担も合わせた負債総額が、
国内総生産GDP)の2倍超にあたる1504兆円と、
10年間で4割以上増加したことが明らかになった。

公債発行額の増加が主因で、発行残高の抑制や
社会保障改革が喫緊の課題だとしている。

2009年度末のバランスシートでは、地方も合わせた
政府全体の資産は985兆円と1999年度末の
887兆円から1割程度増加。

これに対して、年金の公費負担を除く負債額は
2009年度末で1231兆円と1999年度末の914兆円から
3割強の伸びとなり、GDPの2.5倍以上の
規模に膨らむ「債務超過」となった。

資産の増加は、年金保険料の運用で
国債などの証券を購入したため。

負債は国債政府短期証券など国の債務の伸びが大きく
「国の財政状況の厳しさが示された」という。

白書ではさらに、経済協力開発機構(OWCD)加盟国が
財政再建策を実施した際の経済動向も調査。

多くの国で、再建策を実施した後の平均成長率が実施前を上回り
「結果として将来的な平均成長率が高まる可能性が
示唆されている」とするとまとめた。

政府が6月に社会保障・税一体改革を決定したことを受けて、
1990年代以降にドイツと英国で消費税(付加価値税)の引き上げが
個人消費に与えた影響も検証した。

駆け込みによる需要増やその後の反動減はあったものの、
消費の基調が強かった1998年のドイツなどでは
引き上げの影響が小さく、税率引き上げ後の消費動向は
「国や時期によってまちまち」と結論付けた。

さらに同白書では、今年の白書では、東日本大震災
金融市場や経済全般に与えた影響を幅広く分析。

国内外で過去に発生した大規模災害と比較すると、
経済的な不確実性が急速に高まったことなどから、
特に株式市場の変動が大きかった点などを指摘した。

白書では大震災発生後の金融市場動向を、1995年1月の阪神大震災や、
2005年8月に米国を襲ったハリケーンカトリーナ」発生時と比較して分析。

主要株価指数の変動率は一時56%と、カトリーナ発生時の
米国株の5倍、阪神大震災の2倍強に達するなど
「際立って大きな変動」があったことを示した。

今回はサプライチェーンの寸断や原子力発電所事故の影響、
風評被害などで「経済的な不確実性の高まり」が
顕著だったことを併せて指摘している。

震災発生後に急速な円高が進行、一時1ドル76円台と
円が史上最高値を更新した為替市場については、
保険会社などが保険金を支払うために外貨資産を売却、
円を確保するとの思惑が円高の背景だったが、
実際に外貨資産を売却した事実はなかったとして、
投資家の思惑で為替市場に「過度の変動が
もたらされた例」と結論付けた。

さらに、阪神大震災の後に円高が進行したことを
手掛かりとする声もあったことには、当時は
メキシコ通貨危機や米財政赤字の拡大懸念といった
ドル安要因があったとした上で、今回も一部参加者の間で
大震災と円高を「単純に結びつけた行動が
あった可能性がある」としている。

震災後に大きな変化がなかった長期金利に関しては、
日銀が大規模な資金供給オペレーションを行ったが、
すでに実質的なゼロ金利政策下にあるため「長期金利
低下余地は相対的に少ない」ことが背景だったと分析。

今後の復興に向けた資金需要が見込まれる中でも
長期金利は抑制されて推移している」ことにも言及した。

阪神大震災の発生後に長期金利が4%台から2%台へ低下したのは、
政府の「緊急円高・経済対策」や公定歩合の引き下げなど
金融政策が寄与したためだったという。

白書は震災後の金融政策にも言及。

大震災が供給制約を通じて全国に影響を与える中、
日銀がマクロ的な景気の下押し圧力を震災直後に判断し、
一段の金融緩和を行ったことは「適当な対応だった」と評価した。

その上で、今後も下振れリスクが存在しているため
「金融政策による経済の下支えは引き続き必要」で、
政府と日銀は「緊密な連携を保っていく必要がある」と記した。