欧州契機に世界経済悪化する可能性、円高の影響注意深くみる=日銀総裁

白川方明日銀総裁は25日、都内で講演し、日本経済が
世界経済にけん引されて緩やかに回復するとの見通しを
改めて示す一方、欧州問題を契機に世界経済が悪化する可能性を指摘。

世界経済の先行きに対する不確実性から円高が進めば、
「輸出や企業収益の減少、企業マインドの悪化などを通じて
景気に悪影響が及ぶ可能性があり、注意深くみていく必要がある」
と強調し、金融政策運営については「必要と判断される場合には
適切な措置を講じていく」と述べた。

白川総裁は、日本経済は「サプライチェーンの修復が、
当初の予想を上回るペースで進み、落ち込みが特に大きかった
自動車産業を中心に、生産水準が急速に回復している」と指摘、
「2011年度後半以降、緩やかな回復経路に復していく」と述べた。

一方、「見通しには様々な不確実性があり、そうしたリスクへの注意は
怠れない」、「先行きには常に不確実性があり、見通しが実現しない
リスクについても冷静に認識しておく必要がある」などと警戒感を示した。

特に「欧州のソブリン・リスク問題がきっかけとなって
国際金融市場が不安定化すると、世界経済全体に
悪影響を与える」とし、「ギリシャ政府や欧州連合EU)、
国際通貨基金IMF)が必要な取り組みを進めているが、
日銀としても状況を注意深くみている」と述べた。

米国についても「バランスシート調整の圧力が、
今後どの程度強く米国の経済成長を制約し続けるのか、
注意深く見ていく必要がある」と強調。

中国などの新興国・資源国が今後、「物価安定と成長が
両立する形でソフト・ランディングできるかどうかについては、
不確実性が大きい」とした。

震災以降の日本経済について、「供給制約に由来する
景気下振れリスクは薄らいできたが、やや長い目で見た
電力供給を巡る不確実性という問題が新たに浮上している」
と述べ、定期点検後に原子力発電所が再稼働できなくなった場合、
「電力コストの上昇によって、企業収益や家計の実質購買力が
圧迫され、設備投資や個人消費が抑制される可能性がある」
との見通しを示した。

日本の財政については、「デフレの克服も重要だが、
物価が上がる時には歳入も歳出も増加する」、「自然増収による
財政バランス改善の効果は限られている」として、
歳出・歳入改革の必要性を強調した。

財政バランスが悪いにもかかわらず長期金利
低水準で推移しているが、「財政健全化への
具体的な取り組みが見えてこなければ、どこかの時点で、
市場の見方は突然変化する可能性がある」と警告した。

また、「震災後、国債の日銀引き受けや、復興財源ねん出のための
日銀による国債の買いオペといった提案が聞かれることがあるが、
中央銀行が財政ファイナンスを目的として金融政策を
運営していると見なされると、長期金利は上昇し、
日本経済に悪影響を与える」と強調した。

8月に予定されている消費者物価指数の基準改定では、
前年比のプラス幅が下方修正される可能性が高いが、
「基準改定という統計上の技術的な修正をもって
物価の実勢や人々の経済行動が変わるわけではないが、
日銀としてその内容やその意味を点検していきたい」と述べた。

講演後の質疑応答では、基準改定による下方修正幅について、
民間エコノミスト試算も0.3から0.9までばらついている、
と指摘し、「特定の改定幅を前提とした金融政策の
見通しについては発言を差し控えたい」と述べた。

一方で、中長期的な予想物価上昇率について
多くのエコノミストが1%程度と予想しているとして、
「中長期の予想については必ずしも
マイナスでない」との見方を示した。