日本経済は当面輸出中心に厳しい=白川日銀総裁

白川方明日銀総裁は28日、名古屋市内で講演し、
日本経済にとって最大のリスク要因に欧州の
ソブリン債務危機」と述べ、日本経済は当面、
輸出を中心に厳しい局面が予想されると指摘した。

減速した後には緩やかな回復経路に復していくことが
日銀の中心的な見通しだとしたが、先行きには様々な
不確実性が存在するとの認識を示した。

このうち円高については「輸出や企業収益の減少、
企業マインドの悪化などを通じ、景気の下振れ要因となる」と
改めて警戒感を表明し、今夏以降の2回の追加金融緩和策は、
円高が景気に悪影響を与えるとの判断に基づいて実施したと語った。

東海地区は自動車を中心とした輸出産業が盛んなこともあり、
講演終了後の質疑応答も含めて、出席者の円高への
関心の高さをうかがわせた。

白川総裁も「円高への対応」を
講演の項目に盛り込んだ。

白川総裁は、定着している円高基調について
「メリットもあれば、デメリットもある」としながら、
現在の局面での円高は輸出や企業収益の減少など
景気の下振れ要因になる可能性があると指摘。

日銀として、為替の動き自体に「機械的に対応して
金融政策を行うわけではない」としたが、夏場以降の
2回にわたる追加金融緩和措置は、円高が景気の
下振れ要因になるとの観点から「金融緩和に踏み切った」と語った。

政府が10月31日に実施した為替市場介入について、
G7やG20で「為替の過度で無秩序な変動は
望ましくないことが共有されている」と述べ、
こうした背景から「(政府は)介入を適切に行っており、
相応の効果を発揮している」と説明。

今後も国際会議などにおいて、日本の為替介入について
「理解を求める努力を粘り強く続けていく」と語った。

出席者からは、政府・日銀に対して
一段と積極的な対応を求める声が出た。

総裁は、金融政策運営について「強力な金融緩和を
引き続き推進し、日本経済が持続的な成長経路に
復する過程を支えていく」と強調した。

ただ、すでに極めて緩和的な金融環境が実現しているにもかかわらず、
「民間の経済主体が投資や支出を積極的に増やしていくという動きに
繋がっていない」ことを憂慮。

現在行っている包括的な金融緩和政策や、先進国の中央銀行の中でも
国内総生産GDP)比で最大の資金供給を実施していることを説明し、
「緩和的な金融環境を活かすための努力がより重要な課題」と
成長力の強化に向けた取り組みが重要と力説した。

また、デフレ脱却に関して「単にお金を増やすだけで、
物価が上がるわけではない」とも指摘した。

日本経済の見通しについては、新興国のソフトランディングを
「条件」に、「当面、減速した後、緩やかな回復経路に復していく」
ことが中心的な見通しとしたが、当面は「輸出面を中心に
厳しい局面が予想される」と語った。

先行きには「様々な不確実性がある」とも述べ、
欧州当局者の表現を引用し、欧州の「ソブリン債務危機」を
最大のリスク要因にあげた。

欧州問題の現状については「最近では、ユーロ圏の中で
3番目に経済規模の大きいイタリア国債金利
上昇している」とし、ユーロ圏諸国の国債を多く保有している
欧州の金融機関は「市場での資金調達が難しくなっており、
資金確保のために貸し出しを抑制せざるを得なくなっている」と指摘。

欧州では「財政、金融システム、実体経済
負の相乗作用が働き始めている」と述べ、
こうした欧州の経済・金融情勢は「世界の他の地域の
景気にも影響を与えている」との認識を示した。

欧州問題を受けた国際金融資本市場では「ドルの資金市場が
最も不安定になっている」としたが、日本の金融機関については、
ドル資金の調達に「問題はまったくない」と明言。

ただ、今後、欧州問題がリーマンショックのような事態に
発展した場合には「世界の金融機関を巻き込む」と懸念を示し、
すでに米欧中銀との協力で実施しているドル資金供給オペなど
「今後とも主要国中央銀行と緊密な連絡をとりながら、
金融市場の安定に万全を期していく方針」と語った。