現実味高まるECBのマイナス金利、デンマーク中銀が先例に
欧州中央銀行(ECB)は貸し出しを渋る
銀行に融資拡大を迫るため、世界の主要中銀として
初めて預金金利をマイナスに設定するかもしれない。
市中銀行がECBに預け入れる金利がマイナスになれば、
ECBは銀行から預金の「手数料」を徴収する形になり、
銀行に対してECBに預金している資金を貸し出しに
回すよう促す効果が期待される。
ECBはすでに、そうした政策に
向けた歩みを進めている。
7月には主要政策金利としているリファイナンス金利を
過去最低の0.75%とするとともに、
翌日物の預金金利をゼロ%に引き下げた。
ECBのクーレ理事やオランダ中銀のクノット総裁は、
それ以降も必要があればさらなる利下げを行う
可能性をほのめかし、預金金利をマイナスに
引き下げる「実験」もためらわない考えを示している。
そうした動きを受け、エコノミストの間では、
ECBが早ければ9月にも再利下げを行うと
予想する声も出ている。
マイナス金利は大半の中央銀行にとってほとんど
未経験の領域で、ECBは7月にマイナスの預金金利に
踏み切ったデンマークの動向を注目している。
デンマーク中銀は今月、ECBによる利下げに
歩調を合わせる形で金融緩和を実施。
主要政策金利である貸出金利を25ベーシスポイント(bp)引き下げ
0.20%としたほか、譲渡性預金(CD)金利を0.05%から
マイナス0.20%に引き下げた。
だが、極端にリスク回避ムードが強まっている
現在の市場環境において、マイナス金利に踏み切っても
中銀の思惑通りに効果を発揮するかどうか、
疑問視する向きも多い。
シティグループのユーロ圏担当エコノミスト、
ユルゲン・ミヘルス氏は「たとえマイナス金利になっても、
銀行が再びユーロ圏周辺諸国への貸し出しを
増やすとは思えない」と語っている。
なぜなら、銀行が貸し出しを渋っているのは
取引相手に対する信頼感を失っていることが大きな原因で、
「罰則」金利を払うことになっても融資拡大の
インセンティブが生じるとは考えにくいためだ。
ユーロ圏のある中央銀行当局者は、銀行に融資拡大を
促すためには、金利のマイナス幅が少なくとも
0.5%必要だと考えている。
ECBのマネーマーケット専門家グループがリスク管理に関して
最近実施した調査によると、預金金利がゼロ%あるいは
マイナスになってもECBの翌日物ファシリティーに
預け入れる方針を変えないと回答した銀行は、
全体の75%に達した。
むしろ、マイナス金利になれば、市場における取引や
銀行の収益性に悪影響を及ぼす恐れがあるとの懸念が示された。
JPモルガンの試算によると、ECBが超過準備に対する金利を
マイナス0.25%にした場合、ECBの預金ファシリティーを
多用しているドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクを
はじめとするユーロ圏の銀行は、年間20億ユーロに上る金利の
支払いを迫られることになる。
7月のデンマーク中銀によるマイナス金利はそれに続く動きで、
デンマーク中銀は当座預金として受け入れる預金の上限を
全体で697億クローネ(94億ドル)に設定している。
つまり、市中銀行による中銀への預金がそれを上回れば、
預金が自動的にマイナス金利のファシリティーに移されることになる。
ECBがマイナス金利を採用しようとすれば、
そうしたシステムも必要となる。
ダンスケ銀行のユーロ圏担当エコノミスト、
アンダース・ルムホルツ氏は「ECBはまず、
いくつかのテクニカルな問題を解決しなくてはならない。
例えば、当座預金口座に上限を設けるか
どうかといった問題だ」と指摘する。
ECBは現在、必要な準備預金に対しては金利を付与しているが、
超過分については金利を支払っていない。
ECBが7月に預金金利をゼロ%に引き下げた際は、
銀行はECBの預金ファシリティーから当座預金口座に
資金を移すといった行動で応じた。
RBSのエコノミストは、ECBが超過準備の管理方法変更を通じ、
マイナス金利に向けた地ならしを行うと予想する。
例えば、8月の理事会で、超過準備に対してゼロ%
あるいは預金金利の低い方を適用する方法が
採用される可能性があるとみている。
ユーロ圏では、債務危機の深刻化を背景にデンマークの
クローネやデンマーク国債などユーロ圏以外の資産に資金が集中。
金利を支払ってでもそうした「安全資産」に資金を
逃避させる動きが続いているため、ECBが預金金利を
マイナスに引き下げた場合、そうした傾向に
一段と弾みが付きかねない。
市場関係者は、そうなればデンマーク中銀は
金利のマイナス幅を拡大する可能性があるほか、
ユーロ圏の翌日物金利も初めてマイナス圏に
突入する可能性があるとみている。
それは、インターバンク市場で資金を貸し出す側が
借り手に金利を支払うことを意味するもので、
シティグループのミヘルス氏は「われわれは再び
新たな経験をすることになる」と述べている。