復興増税、ネガティブアウトルックを変えるには十分でない=S&P

スタンダード&プアーズ(S&P)のソブリン格付け部門ディレクター、
小川隆平氏は27日、日本のソブリン格付けやアウトルックについて、
今の段階で見直すのは早過ぎるとの見解を示した。

4月にアウトルックをネガティブに変更した段階と比べ、
思っている以上にマクロ経済・財政の悪化度合いは少ないと判断している。

日本の財政再建に向けた取り組みについて、小川氏は
「今の議論は震災復興の予算がメーン。これはこれで大事だが、
日本の財政を再建する本質の部分は、まだ先にある。
どうやって基礎的財政収支プライマリーバランス)を
達成させるのか。政府による財政の健全化はなるべく早く
進めなければ、どんどん国民負担、トータルの金額も増えていく」と述べた。

小川氏は「避けて通れないのが社会保障制度」と指摘。

「仮に消費税率を15%に引き上げたとしても、
今の社会保障制度が続けば国の負担が増えていき、
結果として消費税率引き上げのメリットがなくなってしまう。
消費税率をさらに引き上げなくてはならない状況になってしまう。
社会保障制度の構造的な改革は必要だろう」との見方を示した。

こうした大きな改革を行うには政治的な力が求められるが、
「果たして今の政権、近い将来の政権ができるのか、
気になる。大変残念ながら、もう少し強い政権基盤がなければ、
ねじれ構造から超党派のコンセンサスというのが
得られない」との考えを述べた。

アウトルックをネガティブとしているということは、
S&Pでは、少なくともこれから2年間は格下げをする
可能性が3分の1以上あるとみていることになる。

小川氏は「例えば増税がうまくいかなかったり、
マクロ経済が予想以上に悪かったり、政治的に
不安定な状況になったり、ネガティブな要因が出てくれば、
日本のクレジットが悪化するペースが速くなるかもしれない」と指摘。

増税がうまくいき、税収以外の財源が見つかったとしても、
それだけではアウトルックは安定的には戻らない。
中長期的な政策が出て、本当に実行されれば、
われわれも見方を変える。震災の対応が
うまくいったというだけでは、アウトルックの
変更につながらない」とも話した。

日本国債に対する需給バランスが悪い方向に
崩れるリスクがだんだん高まっている。

同氏は「少子高齢化によって日本の金融資産の蓄積ペースが
スローダウンして、積み上げた部分の取り崩しも増える。
その時に企業部門が金融資産を蓄積すれば、トータルで
見た場合の需給バランスはそれほど悪化しないかもしれないが、
ある時を境にどこかのタイミングで財政再建が起動に乗らなければ、
リスクは増大する。日本の低金利国債の利払いコストを
異様に低く抑えているが、金額ベースでは
利払いの絶対額が増えている」と語った。

S&Pは4月27日、日本の長期ソブリン格付けのアウトルックを
「安定的」から「ネガティブ」に変更。

長期ソブリン格付け「AA─」と短期ソブリン格付け「A─1+」は
それぞれ据え置いている。