ECBは利下げ見送り、イタリア不安への対応急がず

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は7日の
理事会後の記者会見で、不透明な結果に終わった
イタリアの総選挙後、市場は短期間で落ち着きを
取り戻し、波及のリスクは抑制されたとの認識を示し、
ECBとして対応を急がない姿勢を示唆した。

理事会では利下げについて議論したものの、
前向きな経済指標を踏まえ据え置きを決定。

景気が再び悪化しなければ、リファイナンス金利
0.75%に据え置く構えである可能性を示唆する格好となった。

前週のイタリア総選挙ではいずれの勢力も
安定政権樹立に必要な支持を得られず、
経済改革や財政赤字削減への取り組み後退への
懸念を高める結果となった。

ドラギ総裁は、総選挙直後に市場はやや動揺したものの、
現在ではほぼ選挙前の状態に戻ったと指摘し、「1年半前で
あれば何が起きていたか分からないが、それとは対照的に
今回は他国への波及は抑制された。これもまた1つの
前向きな兆候だ」と述べた。

ECBは昨年、加盟国政府が欧州救済基金に支援を要請し、
緊縮措置に同意することを条件に当該国の国債を買い入れる
計画(OMT)を発表した。

OMTはいずれの国に対してもまだ発動されておらず、
イタリアは発動条件を満たす政権を樹立できなければ、
適用対象外となる可能性もある。

ドラギ総裁は会見で「OMTはなお有効だ。非常に効果的な
安全装置であり、(必要が生じた時に備えて)存在している」
と強調した。

その上で、適用ルールは明確だと指摘した。

この日の理事会では、主要政策金利であるリファイナンス金利
0.75%に据え置くとともに、下限金利の中銀預金金利もゼロに、
上限金利の限界貸出金利も1.50%にそれぞれ据え置くことを決めた。

ドラギ総裁は理事会で利下げについて協議したことを明らかにし、
一部のメンバーが利下げを支持していることを示唆した。

ただ、向こう数カ月の金融緩和の可能性については
有力な手掛かりを与えなかったことから、外為市場では
ユーロが対ドルで上昇した。

総裁は「(利下げを)実施する可能性について議論した。
大多数の意見は金利据え置きだった」と述べた。

全員が合意した場合、総裁は通常、決定は
全会一致だったと表明することから、理事会内で
見解が分かれた可能性を示唆する形となった。

中銀預金金利のマイナスへの引き下げについては、
意図しない「深刻な」影響が生じる可能性があるとし、
引き下げ期待に水を差した。

ECBが発表したユーロ圏経済に関するスタッフ予想では、
2013年の成長見通しをマイナス0.9〜マイナス0.1%とし、
12月予想のマイナス0.9〜プラス0.3%から上限を引き下げた。

ドラギ総裁は「2013年のより遅い時期には、世界的な
需要増大やわれわれの緩和的な金融政策スタンスが
支えとなって、経済活動は緩やかに回復する」
との見方を示した。

ただ、経済見通しへの下方リスクが存在し、ユーロ圏政府の
経済構造改革が遅れた場合はとりわけリスクが顕在化する
との見方を示した。

インフレのレンジは「概ね変わらず」とした上で、
経済成長が下振れした場合は物価上昇圧力も予想を
下回る見通しだと述べた。

スタッフ予想では2014年のインフレ見通しが
中央値で約1.3%となっている。

ECBが目標とする2%弱の水準を下回っている
との見方に対し、ドラギ総裁は、基本的に
依然目標に沿った水準だと指摘した。

歴史的な低金利による効果について、ECBでは、
域内への波及効果が一様でないことに大きな問題が
あると指摘しており、利下げ効果に懐疑的ともみられている。

ECBが昨年9月、新たな国債買い入れプログラム
(OMT)を発表して以降、市場は比較的平静を
保ってきたが、イタリアでの政局不安をきっかけに
域内での格差や混乱が増す恐れもある。

専門家の間では、短期的な利下げよりも中小企業や
消費者対策の方が一層現実的とみられているが、
それでは周辺国の後押しにはならないとの声も根強い。

ドラギ総裁は、担保規定の変更など中小企業向け
融資促進に動く可能性はあるかとの質問に対し
「特別な対策を計画したり約束したりする段階にはない」
と答え、中小企業支援策への期待にも水を指す格好となった。