岩田日銀副総裁、物価2%超えて上昇なら国債買わないと明言

日銀の岩田規久男副総裁は28日京都市内での講演で、
物価上昇率が目標の2%を超えて上昇し続ける状況になれば、
政府の要請でも国債を買うことはないと明言した。

しかし、これは裏を返せば物価が上昇しない場合には、
どの程度国債を買い続けるのかとの疑問につながる。

市場に追加緩和観測がくすぶり続けるだけに、
議論の火種になる可能性がある。

大胆な金融緩和は戦前の軍事調達のための国債発行同様に
ハイパーインフレを招かないかと出席者から質問された
同副総裁は「終戦直後は戦争で生産力がなくなったため
人々が少ない物を買おうとして猛烈なインフレが起こった。
今は生産能力はあるが需要がない状況。高いインフレになる
確率は少ない」と説明した。

それを踏まえて「物価が2%を超え、3%、4%と
中期的に上昇していくような場合には、政府の
財政規律が緩んで『どんどん国債を買ってくれ』
と言われても日銀は買いません」と言い切った。

「戦前は軍の言いなりで国債を買わざるをえなかったが、
今の日銀は独立しておりそういう状況でない」と付け加えた。

しかし、物価が目標の2%に達しない場合は、果たして
どの程度国債を買い続けるのかという疑問もわくが、
それに対する言及はなかった。

消費増税をめぐる議論の混迷や、中東情勢などで
世界経済の不透明感から市場には追加緩和観測が
くすぶっている。

黒田東彦総裁は就任直後から戦力の逐次投入は
行わないとして、多少の経済の下振れでは
安易に追加緩和に踏み切らない姿勢を繰り返している。

日銀は新規国債発行額の7割も買い入れており、
黒田総裁ら日銀幹部は更なる買い増しに慎重な姿勢を
示してきている。

これに対して政府内には、黒田総裁に同調する声も多いが、
安倍晋三首相周辺には更なる国債買い入れも選択肢と
主張する声が聞かれる。

物価上昇が緩やかなものにとどまり、なかなか2%を
展望できない場合、政府・日銀で見解の食い違いが
表面化する可能性もありそうだ。

非連続的に長期金利が急上昇するリスクなどについて
見方が食い違う可能性がある。

また同副総裁は、物価上昇率2%の目標を達成した際に
「賃金や設備投資が増えて人々の生活が改善していなければ、
政策は成功でない」と述べ、家計の所得や企業の設備投資が
それぞれ増え経済に好循環メカニズムが働く姿を目指す
重要性を改めて強調した。

岩田副総裁は、現行の異次元緩和政策が、1)2%目標への
コミットメント(必達目標)と、2)国債などの買い入れによる
マネタリベース(資金供給量)の増加、との2つの柱からなると説明。

必達目標を掲げることで、デフレになじんだ人々の
物価観を転換するのが核心と強調した。

金融政策が実体経済に波及するには「株価の上昇と
円安が必要」と指摘し、波及するには「半年から
1年半かかる」との見通しを述べ、アベノミクス
実体経済に好影響を与えていないとの見方をけん制した。

実体経済に効果が波及するまでの間は
「財政政策による需要の下支えが重要」とも指摘。

安倍晋三政権が「第3の矢」として進める成長戦略は、
一時的に過剰な供給力を作り出すと指摘し、「金融緩和で
需要を創出することで、潜在成長力を引き上げることが
できる」と述べた。

金融緩和の波及経路については、予想インフレ率が
高まることで、「円資産より外貨保有が有利になり
円安になる」、「円高修正が一時的でなく安定的ならば
企業は設備投資に踏み切る」と説明した。

講演後の質疑応答では、大量の国債買い入れを続けても
終戦直後のような供給不足は生じていないため、
ハイパーインフレが「起こる確率は少ない」と述べた。

同時に2%の物価目標を安定的に達成できれば、
「政府から要請があっても日銀は国債を買わない」と指摘し、
大胆な金融緩和が財政規律を緩めているとの見方をけん制した。

物価目標を2%とした根拠について、消費者物価指数
実態より上振れしやすく「1%では、実際にはゼロ%から
デフレである可能性があるため」と説明した。