潜在成長率上がらなくても、物価目標は達成可能=日銀総裁

日銀の黒田東彦総裁は23日、都内で開かれた
経済同友会主催のイベントで講演し、足元で
ゼロ%台半ばまで低下している潜在成長率が
上昇しなくても、2%の物価安定目標の達成は
可能だと語った。

夏場に向けて消費税率引き上げの影響を除いた
消費者物価(生鮮食品除く)の前年比上昇率は
「いったん1%近傍まで縮小するとみられる」としたが、
その後はさらなる需給ギャップの改善と予想物価上昇率
上昇によって、物価は再び上昇していくとの見解を示した。

総裁は足元の消費者物価がプラス1.5%まで上昇率を
高めていることについて「緩やかな景気回復が続くもとで、
幅広い品目で改善の動きがみられる」と語った。

先行きには夏場に向けて、エネルギーを中心とした
輸入物価の押し上げ効果が減衰していくことから、
「しばらくの間、1%台前半で推移すると予想している。
特に夏場に向けては、いったん1%近傍まで縮小すると
みられる」と言及。

もっとも、その後は基調的な物価上昇圧力の強まりに
伴って、今年度後半から再び上昇傾向に入り、2015年度を
中心とする期間に目標の2%に達すると指摘。

その先も予想インフレ率が2%に向かって収れんしていき、
需給ギャップのプラス幅拡大によって、物価は「強含んで
推移する」との見通しを示した。

足元の物価上昇の実現は、日銀にとって「予想外の
物価上昇が起きているわけではない。量的・質的金融緩和
(QQE)を導入した際に思い描いていたメカニズムに
沿った上昇」とし、QQEが「所期の効果を発揮しているため」
と強調。

この1年余りで実際の物価が上昇していることに加え、
アンケートや市場の指標から予想物価上昇率も上昇しており、
需給ギャップ物価上昇率の関係を示すフィリップス曲線
「上方へのシフトが始まっているとみられる」と語った。

一方で、QQEの目的は「(物価が)2%に一時的に
達することではなく、これを安定的に持続することだ」
と説明。

そのためには、現実の物価上昇率と予想物価上昇率
さらに引き上げていくことが必要」とし、「(目標達成は)
途半ばだ」とも付け加えた。

その上で、金融政策運営は物価2%の安定的な持続に
必要な時点までQQEを継続すると述べ、「何らかの
リスク要因によって見通しに変化が生じ、物価安定の
目標を実現するために必要になれば、躊躇なく調整を
行う方針だ」と追加緩和を辞さない姿勢を示した。

さらに総裁は、日本の潜在成長率が足元でゼロ%台半ばまで
低下する中、「大規模な金融緩和、財政支出、民間活動の
活性化によって需要が高まってきた結果、水面下に
隠れていた供給力の問題が顕現化してきた」と
供給問題に改めて言及。

「今こそが、課題克服に向けた取り組みを進める
チャンス」とし、資本ストックの蓄積や女性・
高齢者などの労働参加拡大、規制・制度改革の
重要性を挙げて「政府による成長戦略の着実な実行」に
期待を表明した。

政府が掲げる2%の実質成長率目標は「野心的な
戦略だが、不可能とは思わない」と述べ、特に
労働力の質・量両面における改善が「当面、
極めて重要だ」と語った。

もっとも、「実際に潜在成長率が引き上げられるまでには、
ある程度の時間を要する」と述べ、「仮に潜在成長率が
上昇しないからといって、金融政策運営上、物価安定の
目標の達成が困難になることはない」と主張。

「潜在成長率がどうであれ、日本銀行の物価安定に
ついての使命は変わらない」と述べ、「自らの責任において、
できるだけ早期に2%の物価安定の目標を実現する。
改めて約束する」と強調した。

また、総裁は為替相場の変動が物価に与える影響について
「中長期的な因果関係はあまり強くない」と指摘。

為替は「短期的にはいろいろな要因で動く」としたが、
むしろ「中期的には金融市場、長期的には物価動向に
影響される」と語った。

原子力発電所が再稼働された場合の円高進行の
可能性に関する質問に対し「石油やガスの輸入が
少し減って、円高・デフレ要因になることはない」
との見解を示した。