国債9割買い入れは過大、金利上昇時の対応困難=佐藤日銀委員

日銀の佐藤健裕審議委員は4日高知市内で記者会見し、
10月末の追加緩和に反対したことは今も正しかった
と明言。

国債の市中発行の9割も日銀が買い入れるのは
「過大」だと批判し、市場で財政ファイナンス
(財政の穴埋め)とみなされれば経常収支の
赤字転落などを契機に長期金利が急上昇する
リスクがあり、日銀の更なる買い入れで対応が
難しいとの危機意識を示した。

為替円安も景気・物価に対して
「1つの逆風」との見解を示した。

佐藤委員は追加緩和に反対した理由として、
1)2年という特定の期限に2%との特定の
物価を目指すのは、中央銀行の政策として
なじまない、2)市場から(中央銀行が財政の
穴埋めを続ける)財政従属との懸念を持たれやすい、
3)国債の市中発行額の9割もの買い入れは過大なため、
と説明した。

日銀は国債を市中から買い入れており、政府・財務省から
直接買い入れてはおらず、「直接の財政ファイナンス
(財政の穴埋め)ではない」ものの、「市場が
財政ファイナンスとみなせば、経常赤字転落などで
国債のリスクプレミアムが上昇するリスクがある」
と明言した。

その場合、日銀が国債をさらに買い増しても
「かえって事態を悪化させる可能性がある」
と警告した。

日銀が追加緩和に踏み切った直接の理由として
挙げた原油価格の下落は、中期的に日本経済に
「絶好の追い風」で「物価の後押し要因」でも
あるとして、「原油下落は緩和強化の理由として
適切でない」と言い切った。

物価は「原油下落の影響で目先プラス幅が
鈍化する可能性がある」としつつ、「目先の
物価に過度の焦点をあてる必要はない」と指摘。

日銀が目標とする2015年度に物価が2%に
達していなくても「2%に向かうパス(経路)に
あれば政策目標に達している」との見解を
改めて示した。

日銀は昨年4月に「量的・質的緩和(QQE)」を
開始して以降、物価の上下双方向のリスクに対して
追加緩和などで対応すると繰り返してきたが、
リスクはリーマン・ショックのようなリスクであり、
「コンマ数%の物価下振れではない」と強調。

「月々の物価の動きに過度にひもづけた
政策運営は適切でない」と述べた。

佐藤委員は11月の金融政策決定会合では、
10月末の追加緩和で決まった新たな金融緩和
「QQE2」に対して賛同に転じた。

理由について「金融市場はすでに追加緩和を
織り込んでおり、もとに戻すのは現実的でなく、
いったん決定した政策を短期で変更すれば
中央銀行の信認にかかわるため、熟慮の上
賛成した」と説明した。

黒田日銀は、岩田規久男副総裁など大胆な金融緩和を
提唱するリフレ派に倣い、日銀が国債などの資産を
巨額に買い入れ、資金供給量(マネタリーベース)を
増やすことで物価を引き上げるとの教義を事実上
採用している。

しかし佐藤委員は「マネタリーベースで株など
資産価格は動かせても、物価への波及には相応の
タイムラグがある」と指摘。

「マネタリーベース操作で物価を動かせるか
どうかは深淵な問題だ」と含みを持たせた。

政府は日銀の追加緩和決定後に来年10月に
予定されていた消費増税の延期を決めた。

このため更なる追加緩和は賛成しかねるのでは、
との質問が出たが、「消費増税延期と金融政策を
ひもづける理由は乏しい」と答え、日銀は政府の
増税是非とは独立して金融政策を運営する
との原則を示した。

もっとも2020年度に基礎的財政収支(プライマリー
バランス)を黒字化するとの政府の財政健全化目標は
「達成が厳しくなると市場でみられており、市場は
政府の財政健全化姿勢を改めて注視している」とも指摘。

「国全体で財政運営への信認確保が重要」、「持続的な
財政構造確立への着実な取り組みに期待する」とした。

為替円安の急激な進行については、「輸出企業や
株価にはプラスの効果がある」が、「影響は
経済主体により様々で、一方的な見方は取りにくい」
とした。

その上で「為替は経済・金融実体を反映し安定して
推移するのが望ましい」、「為替動向については
実体経済への影響を含め、注意深くみていく」
と述べた。

また景気ウオッチャー調査で「弱気なコメントに
円安への言及が目立つ」点を指摘。

景気の先行きを見る上でも円安が「メリット・
デメリットあるが、1つの逆風であるのは事実」
と述べた。

金融緩和から引き締め方向に転換する出口戦略の
在り方については、事前に方針を説明することで
「透明性を高めるほど、将来の政策への柔軟性が
失われる」としてコメントを控えた。