スイスの通貨スワップ協定利用はフラン高抑制の一環

ニューヨーク連銀によると、米連邦準備理事会(FRB)は
17日までの1週間に、通貨スワップ協定に基づいて
スイス国立銀行中央銀行)に2億ドル供給した。

スイス中銀がスワップ協定に基づく資金供給を受けたのは
同協定が昨年5月に復活して以来初めてだったが、
銀行関係者やアナリストは協定の利用について、
スイスの銀行システムの緊張を示すサインではなく、
中銀によるスイスフラン高抑制措置の一環である
可能性が高いとみている。

スワップ枠利用のニュースは神経質になっていた
世界市場を駆け巡り、スイス中銀はドル資金調達が
困難になっている自国の民間銀行のために
行動しているのではないかとの憶測が広がった。

しかし、トレーダーやアナリストは、スイスの銀行が
ドル資金調達に苦労している兆候はなく、むしろ、
スイス中銀は対ユーロで8月9日に過去最高値を
更新したフラン相場を押し下げるためにドル資金の供給を
拡大しているようだと指摘している。

スイスの大手銀行のUBSとクレディ・スイスは19日、
スイス中銀がFRBと結んでいる通貨スワップ協定
利用していないと発表。

プライベートバンク国内最大手のジュリアス・ベアも
協定は使っていないと表明した。

ブティック型マネー・マーケット・トレーダーの関係者は
「緊張は見られない。スイス以外の銀行の話
だったのではないか」と語った。

トレーダーも、スイス中銀のスワップ利用は8月10日の
週例オペで金融機関に2億ドルを供給した後の出来事だと指摘する。

その後の17日に行われたオペでは
ドルの需要は見当たらなかった。

クレディ・スイスエコノミスト、ファビアン・エレール氏は
「直近のオペで資金供給が再び行われなかったという事実自体、
資金調達に圧力がないことを示唆しており、状況悪化を
示すものではないだろう」と述べた。

スイス中銀は今月、フランの保有コストを引き上げるため、
政策金利である3カ月物ロンドン銀行間取引金利LIBOR)の
目標レンジを0.00〜0.75%から0.00〜0.25%に引き下げるとともに、
市中銀行が中銀に預け入れる当座預金残高の目標水準を矢継ぎ早に引き上げた。

当座預金は銀行システムの流動性の大きな部分を占めている。

中銀は当座預金残高を引き上げる手段として、
為替スワップと中銀証券(SNBビル)の買い戻しを利用している。

中銀は今週17日、当座預金の残高目標を
1200億フランから2000億フランに引き上げた。

UBSのアナリスト、RetoHuenerwadel氏は「とりわけ中銀が
スイスフラン当座預金残高を800億フラン引き上げたことが、
通貨スワップ協定の)2億ドルという規模が
大した出来事ではないことを示唆している」と指摘した。

スイスフランは対ユーロで過去最高値をつけた後、
約10%下落している。

中銀による強い調子の口先介入や、過度な相場上昇に
歯止めを掛ける措置に対するスイス国内での
政治的な支持の広がりがフランの下落を後押しした。

市場参加者の中には、中銀が早ければ20〜21日の週末にも
フラン高を抑制するもっと大胆な措置を打ち出すのではないか
とみる向きもいたが、これまでの措置が奏効していることを
考慮すれば、そこまで急いで新たな措置を講じる可能性は
低いとアナリストは話す。

「中銀にとって現時点ではあらゆることが可能だ。
われわれは未知の領域にいる。しかしながら、最後の措置は、
週明けにかけての短期的措置を示唆してはいない。
依然として相当な選択肢が存在する」(UBSのHuenerwadel氏)という。

市場では、2009〜2010年に実施した為替介入で巨額の損失を計上し、
厳しい批判を浴びた中銀が介入を再開するのではないかとの観測もあった。

しかし、これまでに実施されていないことをみても、
まず最初に他の措置を講じてみる方針のようだ。

インフォーマ・グローバル・マーケッツのアナリスト、
マーク・ミッチェル氏は「介入することはないと思う。
15日からの週にそのチャンスはあった」と話した。

しかし同氏は、域内経済の減速を受けて欧州中央銀行(ECB)が
いずれ利下げに踏み切る一方で、スイス中銀が手をこまねいていれば、
投資家はフランの押し上げに大胆になるとも警告した。

中銀がフランをユーロにペッグさせる、あるいはフランの上限を
設定するのではないかとの観測もあったが、
エコノミストの間では懐疑的な見方が多い。

具体的な水準の防衛は、その水準を試そうとする誘惑を
市場に与えかねず、継続的かつ巨額の介入が必要になりかねないからだ。

ウニクレディトのアナリスト、アレクサンダー・コッチ氏は
為替相場の上限設定は最後に残された重要な手段であり、
使う際には慎重を期す必要がある」とし、
「(1ユーロ=)1.10/1.15フランの下限を
目標にするなら達成は容易だろうが、スイス経済全般の
役には大して立たないだろう。一方、1ユーロ=1.25フラン付近への
下落を維持する方がはるかに困難だ」との見方を示した。