強力な金融緩和に「完全にコミット」=白川日銀総裁

日銀の白川方明総裁は18日、日銀の金融政策運営について、
消費者物価の前年比上昇率1%を目指し、実質的なゼロ金利政策
金融資産の買い入れによる強力な金融緩和を推進していくことに、
完全にコミットしていると語った。

訪問先の米ニューヨークで講演した白川総裁は、
先進国を中心に金融政策と財政政策の境界線が
不明確になりつつあるとし、中央銀行が財政政策の
領域に踏み込めば、独立性が失われ、
信頼が低下するとの見解を示した。

講演は「社会、経済、中央銀行」と題して行われた。

白川総裁は、リーマン・ショックなど世界的な金融・経済危機を経て、
先進国の中央銀行が非伝統的な金融政策に踏み込んでいるにもかかわらず、
「先進国の経済は、なお力強い成長軌道には復していない」と指摘。

低成長や高失業が継続し、財政の発動余地が限られている中で、
現状は多くの先進国で中央銀行への期待が高まっているとし、
「期待に見合う成果が実現しないと、最終的には中央銀行に対する
国民の信頼は低下することになりかねない。そのことは
中央銀行の政策運営にも影響を与える」との認識を示した。

さらに、中銀による長期国債の買い入れ拡大や
リスク性資産の購入によって「金融政策と財政政策の
境界線が不明確化しつつある」ことに言及。

中央銀行が準財政政策の領域に踏み込むことになると、
中央銀行に独立性を付与する正統性が失われ、最終的に
中央銀行への信頼は低下することになりかねない」と懸念を表明した。

このように経済・社会情勢が大きく変化している中での
中銀の役割について「過大評価することも過小評価することも、
ともに危険」と語った。

その上で、中央銀行はインフレ抑制や金融システムの崩壊を
防ぐことはできるが、構造政策は「遂行できない」と指摘。

金融危機実体経済の悪化に対応するために
欧州中央銀行(ECB)が実施した期間3年の
資金供給オペレーションは、市場安定に成果を上げたが、
中央銀行流動性供給は重要な役割を果たす。
しかし、同時に中央銀行流動性供給は
『時間を買う政策』に過ぎないことも
認識する必要がある」と述べた。

さらに、日本の成長率低下や財政悪化は「相当程度、
人口動態の急激な変化への不適合から生じている」とし、
「これによる潜在成長率の緩やかな低下は、
将来所得の予想を引き下げ、支出を減少させることを通じて、
緩やかなデフレの大きな原因になっている」と主張。

日本経済がなかなかデフレから脱却できないのは成長力が
徐々に低下していることが「最大の理由」とし、デフレ脱却には
「成長力強化の努力と金融面からの後押しの両方が不可欠」
と改めて強調した。

その上で、日銀として消費者物価の前年比上昇率1%を目指し、
強力に金融緩和を推進していくことに
「完全にコミットしている」と語った。

また、白川総裁は、経済の持続的な成長という中銀の目標を
達成するには、財政の持続可能性や国民の信認などが
前提条件になると説明。

財政の持続可能性への信認が喪失し、回復に向けた努力が
行われなければ「論理的に考えて起こり得るシナリオは、
インフレか国債のデフォルト」と述べ、「いずれの場合も、
中央銀行の目的とする物価の安定や金融システムの安定を
傷つけることを通じて経済活動や国民生活に
大きな悪影響を与える」と語った。

さらに、中銀が望ましい政策を遂行し、効果を発揮できるかは、
国民の信認に依存するとも強調。

中銀に対する期待や信認は「連続的に自在にコントロールできる
ものではない」とし、「中央銀行は危機においては大胆に
行動するとともに、細心の注意をもってそうした
(現在の異例の)政策を遂行する慎重さの両方が
求められる」と述べた。