日銀、2003年下期議事録では長期金利抑制へ激論、デフレ定着に批判も

日銀は30日、2003年7〜12月に開いた
金融政策決定会合の議事録を公開した。

景気が緩やかな回復局面に入る中で、日銀が
量的緩和を早期に解除するとの観測などから
同年6月に長期金利が急上昇し、議事録からは
政策委員が対応に苦慮していた姿が浮かび上がる。

量的緩和をいつまで続けると公表するかをめぐり、
物価目標導入の是非や、円高への対応について
委員らは激論。

当時の岩田一政副総裁は日銀による2000年の
ゼロ金利解除がデフレを定着させたとして
日銀の責任を厳しく追及し、物価目標を
掲げていなかった当時の政策運営を
「その日暮らし」と批判していたことも
明らかになった。

2003年は5月にりそな銀行
国有化されたのを契機に金融危機がひと段落。

銀行株を中心に株価が上昇に転じるなど、
景気は回復局面に入りつつあった。

2003年の長期金利は、世界的なデフレ懸念の
広がりなどを背景に、6月に0.4%台と当時の
過去最低を更新したが、その直後に一転して上昇する。

7月に1%を突破すると、9月に1%後半に急騰。

Value at Risk」という金融機関の
リスク管理手法が金利上昇を増幅させた面が
あることから、当時の金利急騰は
「VaRショック」とも呼ばれている。

長期金利上昇を受けて7月9日に塩川正十郎財務相
福井俊彦日銀総裁が会談し、長期金利の動向を
注視していくことで合意。

政府・日銀は長期金利の動向に神経をとがらせる。

直後に開かれた14〜15日の金融政策会合では、
長期金利上昇をめぐって活発な議論が展開される。

長期金利上昇は景気回復期待が広がる中での
世界的なデフレ懸念の後退や株価の上昇などが
背景にあり、「先行きの景気回復に対する期待に
基づくもの。潮目が変わったといっても良いのでは
ないか」(福間年勝審議委員)と楽観的な見方も
出るが、多くの委員は「株が上がっているから
長期金利が上がって良いと喜ぶのはどうか」
植田和男審議委員)と警戒感を強める。

さらに「市場では現在の量的緩和のイグジット
(緩和政策の出口)を意識した動きも感じられる」
(中原眞審議委員)と日銀による早期の
量的緩和解除の思惑がくすぶり始めており、
同委員は「長期国債の買い切りを今後、
さらに増やさなくてはならないような状況も
出てくることは可能性として否定できないと
思う」と国債買い切りオペ増額の可能性にも言及する。

これに対して須田美矢子審議委員は「長期金利
コントロールを念頭において、長期国債買い切り
オペを増やすことに伴う問題は、中央銀行にとっても、
また政府にとっても極めて大きい」と反論。

福井総裁が、市場の期待安定化に向けて
「時間軸効果をさらに補強するために、
さらに、どんなことができるかということを
もう一段真剣に考えなければならない」と
議論を引き取り、「消費者物価指数の前年比
上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで緩和を
続ける」とする時間軸政策の見直しに向かって
その後の議論が進むことになる。

日銀は10月9〜10日の会合で時間軸の強化に加え、
当座預金残高目標をそれまでの「27〜30兆円程度」から
「27〜32兆円程度」とする追加金融緩和に踏み切るが、
国債買い入れオペの増額は行われなかった。

落ち着きつつあった長期金利が9月にかけて
再び上昇する中、同月11〜12日の会合で、
時間軸延長の議論が本格化する。

続く10月会合では物価「ゼロ%以上」と
判断する根拠を「単月ではなく数カ月を
加重平均して判断する」などコミットメントを
明確化、時間軸の強化を決定した。

9月の会合で福井総裁は、直近の市場動向について
「株価と長期金利は予想以上に上伸している」と
変動の大きさを表現。

福間委員は「すでに金融市場は極めて
不安定化しており、今後もさらに不安定化する
おそれがある」として当座預金残高目標を
30〜35兆円に引き上げる追加金融緩和を
提案するが、反対多数で否決された。

物価目標の導入を提唱してきた岩田一政副総裁は、
10月の会合で「最終ゴールをはっきり1%ないし
2%(の物価上昇率)であるとし、その下限の
1%に到達するまで今の量的緩和をやるというのが
マーケットに対しては最も強いメッセージ」と改めて強調。

同副総裁は、「2000年8月のゼロ金利解除の
レッスン(教訓)をどういうふうに学ぶか
ということが重要」と指摘。

「つまりデフレを定着させてしまった。理由の一つは、
日本銀行が明確な物価安定数値の目標をしっかり
持っていなかった」ことと述べ、「望ましい最終目標が
ないままその日暮らししている」、「つまり
ディスインフレは素晴らしいというふうに
言っている間にデフレになってしまった」と
辛らつな発言を残している。

一方、須田委員は「物価の動きだけを見て
イグジットを判断することは危険」など、
物価だけを目安とした政策運営に否定的な
見解を示している。

緩和解除条件として物価がゼロ%以上である
期間をめぐっては、武藤敏郎副総裁が「3カ月とか
6カ月というような具体的な数値を示す話もあったが、
適切でないと思う。明確に何カ月という形では、
なかなか決めようがない」と慎重で、総合的な
政策判断が重要との見解を示している。

当時も景気回復局面の中での
円高が大きな課題となっていた。

米国ではブッシュ大統領が支持率低下から
産業界の円安批判に抗しきれなくなる。

9月20日に行われた7カ国財務相
中央銀行総裁会議(G7)の声明は
「市場原理に基づいた為替相場が望ましい」
と介入をけん制する内容になった。

声明を受けて円相場は一気に上昇。

為替介入が難しい空気のなかで、政府は
日銀に対する追加緩和圧力を次第に強めていく。

日銀は10月会合で5カ月ぶりの追加緩和に
踏み切るが、景気が回復局面に向かう中で
9人の政策委員のうち植田委員、須田委員、
田谷禎三審議委員の3人が反対票を投じるという、
苦しい決断となった。

岩田副総裁は「今回のG7の声明というのは
非常に不幸」「これは第二のプラザ合意だと
誤って解釈されたのではないか」と懸念。

その上で「ここ2〜3週間が、為替レートについて
言うと極めて重要な勝負すべき点」と発言し、
明確に為替を意識した政策議論を行っている。

そうした為替を意識した発言に対して須田委員は、
11月21日の決定会合で「為替介入のサポートと
短絡的に捉えられかねないような拙速な金融調節を
行うべきでない」と批判している。